
日本にシンガーソングライターという言葉が生まれて間もないころ、<シクラメンのかほり>というメロデイーも歌詞も非常に美しい曲がレコード大賞を受賞しました。そのころのレコード大賞といえば、受賞した歌手はそれだけで出演料が跳ね上げるといわれた歌謡界最大の賞だったのです。
1975年の話です。その時の歌手は当時、第一線で活躍中の美声で有名だった布施明です。作詞作曲は小椋桂(おぐらけい)。男か女かわからない名前ですが、その時すでに30歳を過ぎた銀行員でした。
風貌はどちらかといえば平凡な普通のおじさん。実は、東京大学法学部卒で、日本勧業銀行(現 みずほ銀行)の行員、絵にかいたようなエリートサラリーマンで当時は非常に話題になりました。お堅い銀行員が美しい曲を作ったり、自らも歌ったりして時にはステージに立つのですから、それまでのサラリーマン像からはかけ離れていたのです。
よく、銀行が認めてるなあというのが、そのころの率直な印象でした。その後、証券部証券企画次長とか浜松支店長とかいういかめしい役職を歴任しているわけですから、決して、よくいる、実務をしていない広報担当のような名ばかりの行員ではなかったのです。このような2足のわらじ生活は1993年まで続きました。
約25年間です。その後は、銀行を退職して、改めて、東京大学に入学したり歌手活動をしてヒットを飛ばしたりで日本の音楽業界では実に特異な存在です。彼は実は学生時代にすでに、そのころ有名だった詩人、寺山修二に見いだされて音楽活動を始めています。